コラム

Kichiとは?

一級建築士事務所FIVE COLOR[S] INKと造園の植威が協働しているプロジェクトを「Kichi」と呼んでいます。FIVE代表の中島さんには、建築だけで完結せず外と繋がった建築もやっていきたいな、という思いがあり、私たち植威にも、建築と外構を最初から一緒に考えていきたいな、という思いがありました。そうして「庭から考える建築をやってみよう」と始まったのが「Kichi」です。

名前には、あそぶように暮らしたい、日常にわくわくしたい、子供のとき山の中や空き地に秘密基地をつくった時のように、過程も楽しみたい。そういう思いを込めています。

Kichi Instagram https://www.instagram.com/kichiasobi/

一棟目が完成 森からはじまる「比良のKichi」

2025年、Kichiとしての初プロジェクトであった比良の家が完成。比良は、大津市最北端に位置する別荘地として開発された所で、区画も大きくバックには比叡山、少し降りて行けば琵琶湖が目の前に広がる自然豊かな土地です。造成以来一度も建物が建ったことのない森のような土地に、家を建てたいというご相談からでした。  敷地を見て最初に思ったことは「今ある木を出来るだけ活かしたい」。前からそこに在ったような落ち着き、ワイルドでのびのびとした暮らしをイメージしました。

▲ 家を建てる部分の伐採、抜根、整地を行った後。水捌けの良い森の土。風が山と湖を行き来していてカラッとした、とても気持ちのいい土地だと感じた。

骨格を決めていく

計画は、駐車場や庭のとり方や既存の樹木位置を考慮しながら、家の形状や配置を決めて行きました。家の間取りも同時進行です。施主様の生活スタイルや庭の使い方、どの方向に開くかで自然の感じ方も変わるし、予算も考慮しないといけない。いろいろな事をパズルのように組み合わせていくので、その場所に立った時のインスピレーションを大切にしながらプランは進みました。

敷地は大きいので自由度が高く悩むかと思いきや、案外べストな方法はすぐに見出せました。まず、既存の木は出来るだけ残したいので家はシンプルにスクエアにして効率よく空間を確保。コストダウンにもなるし、施主様もシンプルな倉庫みたいな家が良いという要望でしたので、特に迷いはありませんでした。家の中はキッチンを中心としで回遊性のある間取り。オープンで大きな(必要に応じてカーテンで仕切れる)ファミリークローゼットがあります。リビングの大きな窓は南に向いています。軒の少ない南向きの窓は夏が凄く暑いですが、ここは高木が木陰をつくってくれるので涼しく、冬はほとんど落葉し直射日光が入り暖かい。

外構計画は、元々の森の木の整理が一番重要でした。あと車をどう置くかを決め、将来薪ストーブも入れたいとの事で薪作業するエリア、畑もしたいなという事で畑エリア、庭でみんなが集うエリアなど設けていますが、そこは広いので自由度も高く、住みながらつくりながら変わっていくと思います。しかし最初にイメージをつくっておくことで、頭がすっきりとして気持ちよく進んでいくことができます。建築との繋がり、回遊性、リビングからの見え方などを特に意識しました。

▲ たたきのプラン。造成の制限や車の置き易さ、樹形の良い既存樹をどう残すか、予算感など、敷地は広いが意外に思考の縛りが多い。

こだわりと潔さと

建築の設計が始まったのは、建設費の高騰がまだ落ち着いていない時期でした。数ヶ月経つと建設費が変わってしまうような激しい流れの中、施主様の非常にポジティブな受け取り方に大いに救われながら(笑)、こだわりと潔さを上手く使い分けながら、何とか着地点を見出し進んで行きました。

▲ 和気藹々と行われる打合せの風景
▲ 現地で模型を見ながらの検討。この後、様々な理由で片屋根形状に変更となった。

こだわったポイントのひとつは間取りの中心でもあるキッチン。施主様がレストランオーナーという事で、家を建てるときは業務用のパワーがあって使いやすい機器を入れたいという夢をお持ちでした。内装については、合板仕上げでもOK、壁を塗りたいところは自分たちでやってみる、壁は必要最小限でオープンな空間にする等、あっさりした考え方にしてメリハリを付けています。

建築にも庭にも言えることですが、すべてに力を入れるよりも、少し「抜け」をつくった方が格好良くなったりします。「垢抜ける」なんて言葉もありますが、本当にそうなんです。

▲ 本気の業務用キッチン。コンロ、シンクなど施主様が希望のものを入れ、それに合わせてキッチンを造作した。調理しているのはレストランオーナーの施主様。
▲ 引っ越しされてからはよく友人を招いて料理をふるまわれるそう。暮らしを楽しんでおられる様子は本当に素敵。

あそびを大切に

Kichiプロジェクト1棟目、正直手探りなところが沢山ありました。しかし一貫して、楽しくつくりたい、わくわくした気持ちで生活してもらいたいという思いがあります。竣工写真を見ながらなんとなく感じて頂ければ幸いです。(笑)

▲ リビングの上は吹抜けになって、とても開放的。猫ちゃんにとってはアスレチックパラダイス。仕切りは無いが断熱効果が良いので暖かい空気が循環する。
▲ 造作のキッチン。業務用コンロの熱カロリーが高いので、コンクリートブロックで囲んでいる。かなり検討した部分。
▲ リビングは窓が多く、室内にいながら森の中を感じることができる。外構工事前に撮った写真なのでデッキはまだ無い。
▲ 洗面は後からご自分で鏡や棚を取り付ける。合板はどこでもビスが効くので、あとでDIYをやりたい方には最高。
▲ 階段とファミリークローゼット。玄関脇にある扉付収納も合わせるとかなりの収納力。全力であそぶための縁の下の力持ち空間と言ったところ。
▲ 2Fはほとんど間仕切り壁のないのびのび大空間。現在は主寝室の他に来客用のベッドスペース、事務スペース、漫画スペースなどに使われている。
▲ 大きな屋根勾配をそのまま天井に。天井の高いところと低いところができ、使いやすさとかをちょっと無視したあそび空間が生まれる。
▲ 地面からリビングの掃き出し窓までかなり高さがあるので、デッキの下に石のテラスを設けている。段差が35cmずつあるので、階段としては大きく感じるが、座るにはちょうど良い高さとなっている。素材を木→石、とすることで、家から庭への繋がりをよりナチュラルにしている。あえてかっちりと組まない(構造的にはしっかりしています)のも、あそびを感じるポイントとなっている。
▲ 階段は薪棚エリアに行く時に便利。デッキ構造には防腐防虫の優れたウリン、床板にはささくれにくいイタウバなどのハードウッドを使用。コンクリート土間の上に設置しているので、ノーメンテナンスでかなり長持ちする予定。経年変化でグレー色に変色していき、人工木には無い味わいが出てくる。
▲ ペットの亀吉さん。デッキから落ちないで日光浴を楽しむそう。
▲ 玄関ポーチには大判の石板、よく歩くところは砕石敷き。究極にあっさりとしているが、そこがお気に入りポイント。外壁はガルガリウム鋼板の角波サイディングの方が費用的に抑えることができたが、屋根と同じ板金の縦平葺きにした。施主様の「倉庫のような建物が好き」という感性が選んだ仕上げ。
▲ 建物の前の大きなクヌギは特に残したかった。庭木ではなかなか選ばないワイルドな木。元々そこに家があったような落ち着き。外構工事は完成しておらず、住みながら必要に応じてつくっていく。

これからのKichi

いかがでしたでしょうか?このブログでKichiの活動を少し知っていただけたら嬉しいです。Kichiにかける思いはまだまだあるので、折を見てKichi活動についてはまとめようと思っております。そちらもまたよろしくお願いします。

今回は新築の中でも完全注文住宅での設計となりました。設計事務所だからこそ対応できる柔軟さがあったと思います。今後は注文住宅の他にも費用を抑えていきやすい「ある程度規格のプラン住宅」というのも考えていこうと思っております。何パターンか基本プランがあって、敷地条件にあわせて少し変更する程度の計画から始めるものです。あまりに融通が利かないといった非合理な仕組みにはしませんが、設計コストは抑えていけると思います。

また、FIVEさんは一級建築士事務所ですので、住宅だけではなくオフィスビル、医院、店舗、別荘など、様々な構造、用途での設計が可能です。規模の大きい街の風景をつくるような工事もしていけたらいいなと思っています。

まだまだ手探りですが、それぞれの道のプロが協働しておりますので、仕事の質についてはご安心ください。もし気になる方はお気軽に、一級建築士事務所FIVE COLOR[S] INK、または植威までお問い合わせください。

FIVE COLOR[S] INK https://fci-design.jp/

植威株式会社 https://uei-garden.com/contact/