シンボルツリーとの出会い
この冬、造園をさせていただいたのは、滋賀県大津市比叡平の朝ごはん屋さんの、「つむぐ」さんです。
調理も担当されるご主人がおっしゃるには、「年金暮らしの近所のご老人が、毎日来られるような定食屋さん。家を出て歩いて、朝ごはん食べて、お客さんと喋って、ゆっくりしていって貰いたい。だから値段はお財布に優しく設定しています!」と。
奥さんは、大のお庭好きで、ご自宅のお庭にも何本か植樹させて頂きました。植物が大好きで、とても詳しく、自然な、作り過ぎないお庭がお好みです。
お二人の人柄や、お店のコンセプトなどお伺いし、道行く人も気軽に入ってくつろいで貰える、ソフトで自然な感じのお庭をイメージしました。また、建物が大きいので、何かインパクトのあるシンボルツリー的な要素が必要だなぁと思いました。「あの、○○の大きな木のあるところ行こうか」という具合に、存在感のある木…。
そんな折、いつもお世話になっている仕入先から連絡があり、諸事情で買い手がつかなければ処分する木が何本かあると。早速見に伺ったところ「これだっ!!」という木がありました!高さ8M、自然樹形のサルスベリ。夏中、赤い花が満開に咲きます。これならお店の看板になると思い、早速ご夫婦に薦めてみました。 すると、サルスベリは好きだと、しかも安くてお勧めならば嬉しいですと、話はトントンと決まりました。
今回、このサルスベリは嫁ぎ先が決まらなければ、伐採される運命でした。新しい場所にきて命長く、道行く人やごはんを食べに来たお客さんに、「立派な木だなぁ」「綺麗な木肌だなぁ!」と、沢山の人に見てもらえます。また、鳥たちにも、憩いを求めて沢山やってくることでしょう。
どんな小さな動植物でも命はありますが、何十年と生きてきた動植物は何か威厳みたいなものを感じられるのは、私だけでしょうか?こんな綺麗な立派な木が、切られることなく比叡平にやってきてくれて、本当にこのご縁にも、つむぐさんにも、感謝の気持ちでいっぱいです。
新しい場所にきてまだ間もないですが、既にいろんな顔を見せてくれます。雪化粧や夜のライトアップ、羽休めにやってくる野鳥たち。今はまだ冬ですが新緑や夏の花の時期。 名前『百日紅』の如く100日花を咲かせてくれるでしょう!
造園をするとき、木や石との出会いは、本当に「縁」だなぁと、ちょくちょく思います。工業製品ではない、一つ一つ違う物との出会い。浪漫があります。(笑)
どんなお庭か?
お庭は、駐車場と建物の間にある「大きな花壇」というようなエリアでした。限られた空間での植栽です。この空間を、思い切り素敵にするため、高木・低木・下草類・グランドカバー・石を、ふんだんに組み合わせました。
また、建物と反対側、道の方に大きく勾配があったので、庭が建物の方にも向くよう、かなり土を入れました。
空間を構成するのに、まず高木類です。シンボルツリーのサルスベリ。その周りには、株立ちのカツラやアオダモ、オオモミジ、ナンキンハゼ。また若木ですが、常緑のシラカシも数本植えてあります。
新緑も然りながら、秋にはカツラは黄色くオオモミジは橙にナンキンハゼは真っ赤に紅葉してくれます。大きいサルスベリが浮いてしまわないように、どの木もシンボルツリーになり得るくらい立派なものを選定しました。建物が大きいので、それくらいのバランスでよく似合っています。
低木類にはトサミズキ、ヤツデ、ヒデコート(ビオウヤナギの大きいもの)など、下草類にはギボウシ、クサソテツ、ウド、ヘデラ、ワイヤープランツ、フキ。グランドカバーに、フッキソウ、芝、クローバー…。 春先から秋まで、宿根系や多年草が木々の足元を演出してくれます。
お庭が本当に落ち着くのには数年かかりますが、だんだんと、春には植物の勢いを感じ、夏にはみずみずしく涼しげに、秋には色鮮やかな紅葉、冬にはこの辺ですと、時々雪景色。そんな四季を感じる事の出来る空間になります。
ちょっとした芝生のスペースもあるので、シンボルツリーの大きな林床の下でティータイムも楽しめそうです。四季折々の美しさ、自然の力強さ、おおらかさを、感じてもらえれば嬉しいです。
お庭は、木だけではなく下草類、石、水、建物等が上手く重なり合う事で、安らぎのある空間になります。今回は景石や飛び石などをポイントで据えています。景石・飛び石と聞くと日本庭園を想像してしまうかもしれませんが、石の種類や使い方で、今回のようなナチュラルガーデンでも、とても効果的に雰囲気を作りだすことが出来ます。植栽だけより、石が入ると空間がキュッと締まるのです。程よい緊張感が生まれるんですね。
工事の終わりに、樹種の名前プレートをハンドメイドしました。市販の物ではしっくりくるものが見当たらなく、結果、板と麻紐で自作しました。カタカナだけでは普通ですので、一つ一つ学名をしらべて書き加えました。アルファベットが入ると、ちょっとお洒落にみえませんか?字が汚いのはご愛敬という事で…(笑)。 ちょっとしたことで、お施主様にも大変喜んで頂けました!
まずは、春の芽吹きが楽しみです。そして、この先何年も四季を繰り返し、どんなお庭になって行くのか、成長、変化が本当に楽しみです。そして、このお店とお庭が沢山の出会いを育んで、人々の憩いの場になっていけばいいなぁ!
ちなみにお店は植威モデルガーデン(滋賀県大津市比叡平1-27-25)の目の前ですよ。