コラム

建物がほぼ出来かけの頃のご相談でした。施主様のご要望は「リビングから庭に出られるウッドデッキが欲しい」「赤、オレンジ、黄色など、いろんな色の紅葉を楽しみたい」「将来小屋を建てたいので想定位置をあけておきたい」などでした。最初の現調時に大体のイメージを持ち、ほぼそのまま形になっていったなという感じですが、外構面積が広くどうしても予算がかかってしまい易いので、色々な工夫を施しています。

▲ 最初の現調時の様子
▲ 最初のイメージパース

擁壁じゃなく丘

敷地は、道路から1.3mほど段差があります。開発時の間知石(けんちいし)の石積み擁壁が一部壊され土を鋤取り、車が2台停められる状態です。来客時にもう一台停められる方が良いし、車が停まっていてもゆったりと動けるように、一段低い部分をもっと広くすることに。それでも庭は十分な広さがあったので、生活のしやすさを優先しました。

普通ならコンクリートブロックなどを積んで土留めをすることが多いでしょうが、幸い十分な広さがあったので傾斜角度を緩めにして、芝で土留めをしようと思いました。おそらくどんな擁壁よりも安価になります。そして、緑の丘が出来てとても楽しそうな空間になります。アクセントとして、景石や石の階段を設置しました。

▲ 擁壁をつくらず芝の丘に

宙に浮いたウッドデッキ

ほとんど屋根があること、床板の下は空間がしっかりとれていて通気性が良いという事で、デッキ材は杉にして浸透系で人体に無害な防腐塗料を塗っています。カナダでは一回の塗装で60年腐らない実績があるそう。日本の多湿な気候ではさすがにそんなに長くはもたないだろうと思いますが、雨に濡れ劣化が早い部分から、少しずつ貼替などメンテナンスをしていってもいいという事で、初期費用は抑えるかたちとなりました。床下の見えにくいところは鋼製束を使い、デッキ下は草が生えないように処理して栗石を敷いています。風通しが悪く湿気が溜まりやすいとウッドデッキは長持ちしません。ハードウッドの場合でも同じです。

ご希望の広さだと法面の上に張り出してくる形になるので、斜面に合わせて束を立てて行き、一部宙に浮いたようなデッキになっています。この形が、駐車場~庭~家をなんとなく上手く繋ぐのにいい仕事をしてくれています。

▲ ウッドデッキ施工中
▲ ウッドデッキ完成形

駐車場を風景に

駐車場に車が無い時って、結構多いですよね。特に日中は出かけたり仕事に使ったり。その時にただ駐車場としてではなく、風景として良い空間になるような雰囲気作りをいつも意識しています。今回も、芝の法面や張り出したウッドデッキはとても機能しています。それに加え、最初からある程度のボリュームの木を植えたこととその配置、あえてまっすぐではなく斜めに石の階段を設けたこと、駐車場土間コンを曲線にして地形に沿わせ洗出し仕上げにしたこと、階段手摺やポスト柱などはハンドメイドにして柔らかくデザインしたことなど、すべて駐車場も庭の一部になる風景づくりを意識して行いました。駐車場~庭~デッキ~家が意識的に繋がる事で、全体的にまとまったデザインとなり、空間がのびのびと生きてくるような気がします。

▲ しっかりしたボリュームのハウチワカエデ
▲ 駐車場も庭の一部となるように
▲ ハンドメイドの階段手摺、材料を細くした柔らかいデザイン(kaji-fufu作製)

庭とリビングを意識的に近くする

ウッドデッキは庭と家を繋ぐのに良いアイテムですが、実は平面よりも高さ関係が重要です。デッキとリビングのフロアレベルを合わせたい場合、庭とデッキの段差が大きくなってしまいます。もちろん階段や沓脱石のようなもので解消出来るのですが、本当は地面とフロアレベルが近い方が、室内やデッキから庭を見た時に広がりを感じます。各部分の広さにも関係しますが、基本的に庭と床は近い方が視覚的に気持ち良いです。今回はちょうど駐車場の鋤取りで残土がたくさん出たこともあり、その土で庭部分を20cm程かさ上げし、既存擁壁の間知石を再利用し土留めとステップを設置しました。無駄なく効果的に、室内~デッキ~庭を気持ちよく繋げる事が出来ました。(盛った土を建物基礎に直接つけてしまうと、建物の床下が湿る原因になってしまいますので注意が必要)

▲ 庭のグランドレベルを少し上げる事で室内~デッキ~庭の繋がりが強くなる

まとめ

デザインとコストはとても関係してきますが、お金をかけるほど気持ちの良い空間になるというわけではなく、工夫したりメリハリをつける事で良くなっていくものです。基本的にはバランスよく全体的に仕上げられればいいのですが、場合によっては必要な部分をググっと頑張る事もあります。

また、コンクリートブロックやエクステリア建材のようなかっちり決まった形のものではなく、石や土や木など自然素材を上手く使いこなすと、デザイン的な納まりの「逃げ」をつくる事ができるので、ローコストにしつつもお洒落な庭づくりが可能です。そしてやはりそのような素材は、経年変化が面白い。自由で面白い外構工事という方法もあるという事を、少しでも沢山の方に知って頂けると幸いです。

完成後写真撮影:中川写真映像社