‘とある土地での家の妄想- 子育てが一段落した夫婦が暮らす。先ずは敷地の四隅に木を植えてみた。普段のルーチンとは明らかに異なる。
家のあり方は施主の価値観や人生のあり方にかかわる。設計者が施主となる時、家のイメージから設計者像が垣間見える事になる。
夫婦の対話から自分の求めたいものに気付き、時には愕然とする。
個人性、社会性、施主の希望、設計者の希望等が渦巻き、夫婦が相まみえながら良い間合いを見つけていく過程から、よりよい居心地を求めていく。'(パンフレットより)
この夏、京都の劇場 THEATRE E9 KYOTO さんで、舞台植栽をお手伝いさせて頂きました。実際の土地をモデルに、建築家が自分たちの家を考え建てて暮らす物語。建築家の‘夫’は、道路から敷地が2Mも高くなっている少し難解な土地条件での建築方法を解決しつつも、建築の性能や効率に心が囚われてしまい、本来の豊かさを忘れかけてしまいます。しかし‘妻’がそれにハッと気付き、本当に自分たちが求める暮らしはどんななのかと、追求します。そしてまず庭から考え始めることになります。
植栽の要望は、実際に庭木として植えたい木。森林の中に身を置くような気持ちになれる自然樹形で紅葉の美しい雑木です。実際問題として、真夏の移動は木にすごく負担がかかるので選べる樹種には限りがありましたが、(今年根鉢がつくられている比較的強めの樹種でないといけません)うまく丁度良い大きさで樹形の美しいアオダモ、ジューンベリー、イロハモミジ、ドウダンツツジを選べました。
劇中では、「先ず木を植えよう」というシーンで、キャスター付きのBOXに入った樹木をガーッと移動します。アオダモとジューンベリーは高さが3M弱あり、普段植える庭木としては小さめ~標準サイズと言ったところですが、舞台上ではなかなかの迫力がありました。植栽があるだけでも空間に潤いが生まれいい感じなのですが、それがただのディスプレイではなくガーッと動く。なんかこうすごく、新鮮な感覚を覚えました。置く場所によって照明の当たり方が違うんですよね。それがまた面白くて。もちろんストーリー上必要な事でもありましたが、とても斬新な演出だったと思います。
作・出演のお二人は実は本当の建築家のご夫婦。この劇の演出家の自宅を設計したことから、建築の過程を劇にしてみようという事で始まったプロジェクトだそうです。なので、お二人は舞台に関しては全くの素人。しかし演技があまりに自然かつ思考実験の内容が面白いので、素人という事は全然気になりませんでしたし、むしろ‘妻’は活舌よく動きが大きく華やかは雰囲気を持っておられたので、舞台経験がお有りかな?と、思ったほど。なぜこんなに演技が自然だったのかというと、脚本は実際の夫婦の会話を録音したものを元につくったからだそうです。
そのせいもあり、お二人のやりとりに妙なリアリティが有り。特に夫婦で同じ仕事をしているという同じ状況なので、「そういうのあるある」とか「今度それ言うてみよ」とか、色々思いながら内容から少し外れた「笑い」のシーンもしっかりと楽しませて頂きました。
家を持とうと思う時、固定観念や住宅性能だけにとらわれずもっと広い視野でバランスよく豊かさを求めていける方が増えたらいいな。たくさんの方にこの劇を観て欲しいな。そんな風に思えた劇でしたし、この内容をこのスタイルで劇にしてみようと思った演出家のセンスもさすがプロだなと、本当に良い刺激を受けたのでした。
・おまけ・
三日間の講演でしたが、リハーサル前に搬入しましたので搬出日までは6日間ありました。水管理が必要なので劇場の方にお願いしました。エアコンの風で葉が乾燥してしまいますので、鉢の水管理だけではうまくいかないと思い噴霧器をお貸しし、葉水もしっかりしてもらいました。おかげで最終日まで潤いのある葉をつけてくれていました。
外の植物も葉水をしっかりしてあげると、最近の暑い夏も何とか葉を沢山落とすことなく、綺麗な状態を保ちやすいですよ。外の木にはホースでたっぷり葉水してあげてくださいね。