コラム

「構えた感じの外構にしたくない」クライアントの想いからつくるプラン

京都市の少し北。東には琵琶湖、滋賀県高島市の朽木村での案件。新興住宅地ではなく、鎌倉時代から続く陣屋町で歴史のある集落です。工事させて頂く事になったきっかけは、HPの問い合わせからでした。
他府県から引っ越しを前提に土地を購入し、建築計画が大体できた頃にご相談下さいました。建設地から遠方に住んでいるというご自身の状況から、建築は全国に支店を持つ大手ハウスメーカーさんに依頼され、しっかりとした外構計画も提案されていたのですが、それが「どうもきっちりし過ぎてしっくりこない」という事で外構は切り離しご自身で業者を探し始め、見つけて頂いたとの事でした。
自然が好き、木が好き、家は四角で固い感じだから外は柔らかくしたい、集落に対して構えた感じの外構をしたくない。このようなクライアントの想いをお聞きし私たちは、現代住宅と歴史的地域のつなぎとなるような「和」を感じる前庭をイメージしました。
まず、家の前の広い駐車場が風景と馴染む事。紅葉する落葉広葉樹がたくさんある事。そして子供も大人も家族みんなが楽しく使いやすい。
景観的視点と家族的視点、どちらも大切にしながら案を練りました。

▲ 家が完成してすぐの外構工事前。広い敷地と平屋の大きな家。

▲ 石畳の駐車場が特徴のプラン。左側の道路に対してオープンだけど程よく閉じている。

▲ 石畳と紅葉する木の庭のイメージパース

▲ リビング前の奥庭は差し石と雨落ちがぐるりと家を囲い、小高い丘が前庭とプライベートな奥庭を柔らかく分けている。

まずは空間の骨格をつくる

造園工事は4月がスタートでした。基本的に落葉樹の場合、根が休んでいる時期に動かさないと木への負担が大きくなります。これ以上暖かくなると移植しにくくなるので、まず植栽から始めることにしました。庭のポイントとなる木は、日本の山に自生していて紅葉する落葉中高木です。敷地も家も大きいので、最初からある程度成長した木を植えました。それでもかなり空いているような印象ですが、数年して木が落ち着いてきたころに、それぞれがのびのびと成長しちょうど良い感じになるでしょう。山の木は、自然樹形が一番美しいと思います。のびのびと育つよう、気候や条件(陽当たりや水捌け)に適した木を、あまり詰め込まずゆったりと植えるのが、将来的にローメンテナンスで美しい庭になっていく事になります。

▲ メインツリーのヤマトアオダモは高さ7m程

木には「向き」があります。「表」「裏」と表現したりもします。建物との関係、人の導線、道からの見え方、室内からの見え方、木の高さや樹形、それらを考慮しながらまるで図形の重心を定めていくような感覚で全体を配置し向きを決めていく作業は、造園工事の骨格づくりと言えるでしょう。いろんな方向からものを見て、総合的にバランスをとっていくと、ストンと腑に落ちる空間となります。なんだか格好良くないな、気持ち悪いな、と感じる庭はこの骨格がちゃんとつくられていないのです。

▲ 庭の骨格を決める、一番楽しくて重要な作業

石でつないでいく

新しいものと古いものをつなぎたい時、石や樹木などの自然素材は、大変有効です。今回は道路から家までの間が広い駐車場だったので、その部分を石畳にしました。石は庭園や古民家の解体で出る古材です。庭園の敷石だったもの、蔵の根石だったもの。厚みがバラバラで重いので、一石ずつ据えていきます。手間がかかり大変ではありますが、古さゆえの独特の味わいあり、切り出したばかりのサイズの揃った石には無い魅力があります。
サイズや形ももちろんバラバラなので、敷き方には直観が必要です。目先ばかりを考え形の良い石ばかり選んでいくと、有る材料をうまく使えません。全体像を見据えやっていく事が大切です。そして据え方で流れをつくります。勢い、方向とも言えますが、なんとなく行き先に誘われているような、自然と足が向くような、石の流れです。

▲ 施工中。三又という道具を使って、重い石を据えていく。

▲ 施工中。三又という道具を使って、重い石を据えていく。

▲ 道路から見た石の流れ

この建物の屋根には樋がありません。周りは山だから落ち葉が溜まるだろうという事で、そのように計画されました。ですから、雨落ちが必要です。家の周りをぐるりと差し石でまわって、中に砂利を敷きました。テラスからすぐに芝生が始まるとナチュラルでラフな感じになりますが、差し石があると和を演出することが出来ます。また、用途と美しさの両方を兼ね備え庭の良いアクセントとなります。この雨落ち部分は歩くことも出来るように、砂利が安定する資材を入れています。また、屋根の水が排水されやすいよう暗渠も入れてあります。

▲ 施工中。テラスに合わせた差し石。時に「形」をくずすのも面白い。

▲ 雨落ちには暗渠も入れて水捌けを良くしている。

また、玄関前には特大の沓脱石を据えました。沓脱石と言っても、この場合実際この石の上で靴を脱ぐわけではなく、玄関ポーチと地面のレベルを解消するためのものです。元々は日本庭園の池の橋に使われていたものですが、玄関と庭をつなぐ役割を上手く担ってくれました。工業製品でない石材との出会いは本当に面白いもので、適材適所でぴったりと当てはまった時は、本当にしっくりと風景に馴染むのです。

▲ 玄関前の特大の沓脱石。家が大きいので、これくらいが丁度良い。

「和」とは

ただ「和風モダン」「日本庭園風」というなんとなくカッコイイだけのデザインは好きではありません。と言っても、現代住宅に和庭の技術を駆使した庭が合うのかというと、デザインの密度や管理費の視点から見てもほとんどの場合、合わないと言わざるを得ないでしょう。だけど「和」を感じることはとても好きです。心が落ち着きます。やはり、現代の暮らしに溶け込む「和」は必要だと感じます。

「和庭」には、歴史やその時代の流行や宗教観により、様々な形式があります。でも根本には、自然を切り取って表現する、つまりは山や川の風景を取り入れるという考えがあります。茶庭などでは必然性や作法が形となり、やはり自然の豊かさや厳しさなどの理を表現しているのだと感じます。そのような本質の部分を大切にしつつ、固定観念は持たず、デザインや素材の必然性を表現する事で、現代住宅における「和庭」が成立すると感じています。

それを試行、表現するのにこの住宅はぴったりでした。この家で暮らすご家族は、この庭を観光地の日本庭園の様にはもちろん扱いません。芝の庭で友達を呼んでバーベキューをし、木になる実をとって食べ、花をちぎって遊ぶこともあるでしょう。でも同時に、雨に濡れた石や木に心が癒されたり、新緑や紅葉を見て身近な自然に感動することもあるでしょう。生活に潤いをプラスする、そんな「和庭」になって欲しいという想いを込めて。

▲ BBQを楽しむ

▲ リビングからの風景

▲ 濡れた石畳

▲ ナチュラルな飛石や階段

▲ 水鉢

▲ 水鉢で涼むワンちゃん

▲ 現代の家と庭

▲ 木々の紅葉

▲ 造作のポスト兼表札:kajifufu制作

完成写真撮影:中川写真映像社