コラム

庭やランドスケープ計画において、ものの「配置」はとても重要です。素敵な配置のされた庭は心地よさを生み出し、すんなりとナチュラルに、空間を愉しむ事が出来るのです。

もう16年ほど前になります。ヨーロッパ建築や海外の都市や自然やランドスケープを実際観て歩きたいと思い、4ヶ月程、主にヨーロッパを旅した事があります。
大好きな沖縄石垣島から始まり、船で台湾、その後は飛行機と鉄道で、タイ、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、またタイ、カンボジア、日本。
大まかなルートだけ決めて、片道チケットの行き当たりバッタリの旅。(昨今では、なかなか難しいかもしれませんね。)
この旅では、ガイドブックや写真からだけでは分からない沢山の体験をしました。その中で今回は特に感動したピサのドゥオモ広場の事、それを思い返して今考える事について書きたいと思います。

ピサと言えば、有名なのはピサの斜塔です。観光地で人も多く、人込みが基本苦手な私にとって「どうしても行きたい!」と言うポイントでも無かったのですが、まぁ有名だし、ルートから大きく外れない街でしたので、途中下車して夕方から夜までの夜行列車に乗る間の時間を利用して寄ってみる事にしました。(旅行中は、長距離移動は出来るだけ夜行列車を利用していました。宿代を浮かして時間を有効に使う為です。)
斜塔は鐘楼で、ピサのドゥオモ広場には斜塔とピサ大聖堂とサン・ジョバンニ洗礼堂という主に3つの大きな建物が建っています。大聖堂は平面的にみるとラテン十字形プランをしています。ロマネスク建築でこってりとした重厚なデザインです。洗礼堂は大きなドーム型の屋根を持っています。鐘楼は斜塔、誰もが知ってる、円柱が傾いたピサの斜塔です。

イタリア・ピサで感じた「素敵な配置」
▲ ドゥオモ広場配置図

広場に着いたのが、内覧見学出来る時間の直前でしたので、もう塔には登らずうろうろしていました。そのうちに人がどんどん少なくなって、空が夕焼けで薄紫色になって来ました。私は広場の真ん中らへんに立っていました。するとだんだん、張り詰めた空気のようなものを感じました。3つの建物の中心で、見えないバリア、悪いものが入って来ないための見えない空気の膜が張られてるような感覚でした。
「この感覚は、3つの建物の形ボリュームと、配置が作り出している!」その時直感的にそう感じました。人が多い日中では感じる事が出来なかったかも知れない感覚。それを感じる事が出来て、何かに只々感謝していたのを覚えています。内部にも入らず、暗くなると独り歩きが危険なためほんの数十分の滞在時間ではありましたが、4ヶ月の旅の中でとても印象深い場所となりました。
もしまた訪れる機会があれば、内覧出来る時間帯に行き、斜塔の傾きを堪能したり、大聖堂や洗礼堂をゆっくり見て、また夕方の人の少ない時間帯のあのバリアのような感覚をドゥオモ広場で感じたいです。そして今度は、ピサの町並もゆっくり歩きたいと思っています。

イタリア・ピサで感じた「素敵な配置」
▲ 巨大なピサ大聖堂。2002年撮影。

イタリア・ピサで感じた「素敵な配置」
▲ ドーム型の屋根を持ったサン・ジョバンニ洗礼堂。2002年撮影。

造園の世界で仕事するようになって、石や木の大きさのバランスや配置と言う物が凄く大事だと言う事がスッと入って来たのは、もちろんそういう事について建築や地域デザインの分野で勉強したり仕事して来たと言う事もあるのですが、あのピサのドゥオモで体験した感覚があるからこそだと思います。「百聞は一見にしかず」とはよく言ったものです。
だから造園計画する時はいつも、「素敵な配置」を意識しています。それは、心の深層部分で感動し、癒され、愉しいという感覚を覚える大きな要素の一つなのです。

今回、この記事を書くにあたり古い写真を見返して、旅の中の色々なことを思い出しました。旅で触れた様々な価値観、洗練された芸術、考え抜かれたデザイン、多様性、表現の自由、歴史の壮大さ、訪れた地域地域の素晴らしさや不便さ、それで感じた日本の素晴らしさや窮屈さ…。社会に出る前の本当にまだまだ未熟な自分が感じた感覚。それらは案外いい所を突いていたんじゃないかなと思う今日この頃。これからも初心を忘れず、心の底から気持ちのいい空間造りを目指して精進します!